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ガラス

2002年 Liz
東京アンダーグラウンド誌「SPEAK」2002年10月号 掲載作品
 とにかく時間が気になって、何度も何度も何度も時計を見た。
 それはこの後に、気の知れた友人との待ち合わせや、デート等があるからではなく、ただ、今居る、ある一定時間制限されたこの場所や、内容や、関係、とにかく全てから、とにかく早く開放されたかったからだ。

 ビーズ?硝子?
 小さい頃、学童保育所の片隅にぽつんとある小さな砂場で、良く遊んでいた。プラスチック製のふるいに砂を入れ、それを左右に揺らすと、網目をくぐる物とそうでない物とに分けられ、ふるいに残った砂の中に僅か、硝子のような透明の欠片が見つかる。
 それはダイヤモンドだった。
 勿論本物ではないが、ただ灰色で、無機質で、どこか寂しげなその場所からそれが見つけられると、私は嬉しくなって、宝箱に入れて大切にしていた。

 今、私の視界一杯に、それをひとつひとつ綺麗に丁寧に磨いたものが散らばっている。
 様に見えたが、それは違った。
 私はタクシーの左側のドアにもたれ掛かり、眠っていたようだ。
 細かい雨の雫がぱらぱらと窓全体に付き、すれ違う車のライトや街灯等に照らされ、キラキラと輝いていたのだ。
 お酒臭い。
 今日はどの位飲んだんだろう。
 ついさっきまで話していた事や、相手の顔や名前が思い出せない。
 全てが、まるで魔法のように霧に挟まれ、包まれ、ぐにゃぐにゃになりながらあっさりと消える。
 こうやって、毎日、色んな事を忘れてゆく。
 窓に付いた雫がとても綺麗で、子供の頃を思い出したということもきっと、忘れてしまうんだろう。
 けれど一つだけ。
 夕焼けの中、小さな砂場で飽きもせず遊んでいたあの頃には気付かなかったこと。

 残った砂だけじゃなく、落ちた砂にもダイヤはあった。