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テキストという夢、あるいは娼館。

2003年 木戸隆行
東京アンダーグラウンド誌「SPEAK」2006年4月号 掲載作品
 テキストという夢、あるいは娼館。やさしく添い寝する美しき腕に、肩に、首筋に育まれながら、冗談ともつかない鮮やかな渦巻きに飲み込まれ、若干の甘えと丹念な愛撫に支えられた底知れぬ不安がいつまでもまとわりついて離れない。
 ──僕のことが大好きなのか?
 ──うん!
 ──なら仕方ない、共に行こう。あのなだらかな丘の向こうの朝日が沈むまで。
 僕たちは手をつないで歩き出した。平原を貫く小径を、まるで本の中の足長おじさんのように。日も暮れかけた頃、何時間も歩き続けた僕たちは、ようやく見えてきた町に入った。町は僕たちの大好きな、石でできた町だった。気まぐれに場末の裏道に立ち寄ると、ひとけのない小さな広場の片隅に、ひっそりと小川が流れていた。言い足りない喧騒と聞き飽きたぬか喜びの流れる川は、僕たち二人の疲れを癒した。僕たちは川べりに座り、僕はタバコをくわえた。錯覚と直角と平行線は僕たち二人の間で少しずつ明らかになろうとしていた。少年はこらえきれない様子で、しかし同時にそれが明らかになるのを恐れていた。僕は知らぬ振りをしていた。少年は心の中でこう繰り返していたに違いない──僕はあんたのペットじゃない──僕は少年がなにげなく地面に描いた絵からそれを読み取っていた。その絵は、あらゆる部分が鋭い線で構成されていた。非常に細かく、しかし太く深く描かれた線──それは少年の旅立ちと僕の取り戻された孤独を無造作に予告していた。
 テキストという夢、あるいは娼館。僕は腕から目覚めると、いつものように、努めてドライに、永久にそこに留まるなどというおぞましい欲望と闘いながら、二度と会えないかもしれないその身体に対して、最高の敬意を支払うのだった。