永遠のオレンジ・シャーベット
1999年 木戸隆行著
個展「LOVE CRAZY Installation」展示作品
個展「LOVE CRAZY Installation」展示作品
春の穏やかな日差しのもと、僕とココは田舎道をサイクリングしている。左右から青々とした並木が枝を張り出し、その木漏れ日が、左を走るココの顔で流れている。ココは笑っている。口を大きく開け、無防備に、力いっぱい、笑っている。木漏れ日のかたまりが、その頬のソバカスを照らしつつ、次々に、次々に、流れ去る。僕もまた笑っている。二人とも、なぜだかとても楽しいのだ。背後にはリゴレットの「慕わしい人の名は」が流れ、また、その美しい歌声だけが、音の世界を満たしている。道端には青や白やピンクの花が咲き、その鮮やかな色彩が、空気ににじみ出している。ココは笑いのあまり、肩をカタカタ震わせながら、徐々に徐々にうずくまる。そしてハンドルまで顔を下げると、今度は思いきり空を仰ぐ。するとまた木漏れ日が流れる。僕はそれを憧れにも似た、まばゆい光に包まれた神さまに向けるような眼差しで、見つめる。ココは笑っている。僕はそれを見つめている。ココはまだ笑っている。僕はそれをまだ見つめている。ココはまだ……
突然、僕は怒り出す。分厚い暗雲から破れ出た、激烈な紫の雷光のように怒り出す!非情な、とても冷酷な感情で!背後にはピアソラの「イマジン」のクライマックスが!そして論理とモラルの限りを尽くし、ココを謂れもなく責め立てる!それは内自然的な、ごくありきたりな現実だ!不条理の条理だ!愛の現前だ!ネバネバとした、生温かい、交錯する赤い腕だ!
すると空から雨が落ちてくる。シトシトと、疎らな、縦に伸びた雨の模様が、辺りをすっかり薄暗くする。ココは雨に濡れたペシャンコな髪で、じっと涙をこらえている。口を結び、目を見開き、時々雨にまばたきをして、それでもじっとこらえている。すると僕の言葉は、そのバラのトゲを次々に失い、やがて、この上もなく柔らかな、少しだけ粘り気のある、できたてのマシュマロになる。だがココは、なかなかそれを食べてはくれない。それどころか、口を結び、頑としてそれを拒絶する。すると僕は極度の後悔による憤りから、ブレーキを思いきり握り締める。僕の自転車は驚くべき制動距離内で止まる。だがココは、ココの赤い自転車は、そのまま遠くへ走り去る。僕はそれをじっと見送る。少し強まった雨の中、まばたきもせずにそれを見送る。すると僕とココとの中間距離に、モンシロチョウが、雨に打たれたためにいつもよりよけいにたどたどしく羽ばたきながら、横切る。雨はますますひどくなる。チョウは一刻も早く並木の下へ雨宿りをしに行かなければならない。僕はハンドルを手に、依然立ち尽くしたままだ。音楽はすでに止んでいる。ココの姿はもう見えない。それをどうしろと言うのだろう?
家に帰ればココは必ず、温かなシャワーを浴びている最中なのだ。
突然、僕は怒り出す。分厚い暗雲から破れ出た、激烈な紫の雷光のように怒り出す!非情な、とても冷酷な感情で!背後にはピアソラの「イマジン」のクライマックスが!そして論理とモラルの限りを尽くし、ココを謂れもなく責め立てる!それは内自然的な、ごくありきたりな現実だ!不条理の条理だ!愛の現前だ!ネバネバとした、生温かい、交錯する赤い腕だ!
すると空から雨が落ちてくる。シトシトと、疎らな、縦に伸びた雨の模様が、辺りをすっかり薄暗くする。ココは雨に濡れたペシャンコな髪で、じっと涙をこらえている。口を結び、目を見開き、時々雨にまばたきをして、それでもじっとこらえている。すると僕の言葉は、そのバラのトゲを次々に失い、やがて、この上もなく柔らかな、少しだけ粘り気のある、できたてのマシュマロになる。だがココは、なかなかそれを食べてはくれない。それどころか、口を結び、頑としてそれを拒絶する。すると僕は極度の後悔による憤りから、ブレーキを思いきり握り締める。僕の自転車は驚くべき制動距離内で止まる。だがココは、ココの赤い自転車は、そのまま遠くへ走り去る。僕はそれをじっと見送る。少し強まった雨の中、まばたきもせずにそれを見送る。すると僕とココとの中間距離に、モンシロチョウが、雨に打たれたためにいつもよりよけいにたどたどしく羽ばたきながら、横切る。雨はますますひどくなる。チョウは一刻も早く並木の下へ雨宿りをしに行かなければならない。僕はハンドルを手に、依然立ち尽くしたままだ。音楽はすでに止んでいる。ココの姿はもう見えない。それをどうしろと言うのだろう?
家に帰ればココは必ず、温かなシャワーを浴びている最中なのだ。