今あなた。
2007年 木戸隆行著
出て行く場所を探しているうちに、すっかり自分が出て行く場所そのものになって、いずれ訪れる終末が僕のすべての志をやさしくピンセットで取り除いた今、見るべきものは一つ──今あなた。僕自身というかけがえのないまどろみだ。
草木──それが一瞬見えたことは確かだ。そしてあの親友が見えたのも。
彼の冷たい唇とおびえた目。彼のために僕はうたう。彼とともに僕はうたう。なぜなら彼のビジョンが僕という境界線をバラバラに吹き飛ばしてしまうから。あらゆる現実そのものを、彼は鮮やかに無視してしまうから。
僕が生きる意味に戸惑う時、それが彼の時間になる。彼が戸惑う時、それが僕の鈍く輝く時になる。
触れているより抱きしめていたいような、そんな力強い野太い幹のようなものが彼の胴周りにはあって、僕の腕はそこに巻き付くしなやかな蔓だ。時々花を咲かせて諦めた旅人を驚かせる。僕というちっぽけで、思いがけなく冒険的な、冬には完全に朽ち枯れ、しかし春には息を吹き返す、とても気味の悪い植物であるこの僕──
彼はいろんな物をとても大事に扱っている。僕はいろんなものを粗末に扱っている。
草木──それが一瞬見えたことは確かだ。そしてあの親友が見えたのも。
彼の冷たい唇とおびえた目。彼のために僕はうたう。彼とともに僕はうたう。なぜなら彼のビジョンが僕という境界線をバラバラに吹き飛ばしてしまうから。あらゆる現実そのものを、彼は鮮やかに無視してしまうから。
僕が生きる意味に戸惑う時、それが彼の時間になる。彼が戸惑う時、それが僕の鈍く輝く時になる。
触れているより抱きしめていたいような、そんな力強い野太い幹のようなものが彼の胴周りにはあって、僕の腕はそこに巻き付くしなやかな蔓だ。時々花を咲かせて諦めた旅人を驚かせる。僕というちっぽけで、思いがけなく冒険的な、冬には完全に朽ち枯れ、しかし春には息を吹き返す、とても気味の悪い植物であるこの僕──
彼はいろんな物をとても大事に扱っている。僕はいろんなものを粗末に扱っている。