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冷やされる少女

2000年 木戸隆行
イベント「SPEAK ORANGE」VIDEO上映作品
 1

 僕は自分がなにものか分からなかった。少なくとも、人間であるとは言いがたい、あるなにものかだった。証拠に、僕たちの冷蔵庫には一人の少女が凍りづけにされていた。少女は扉を開けるといつも不安げに僕たちを見上げた。そのすぐ脇から、アンナは高飛車なエプロン姿で炭酸水を冷徹に取り出すのだった。少女はなかばあきらめの混じった悲しい目つきでその手を眺めると、またしっかりと扉を閉じられるのだった。僕はというと、たとえば水の完全に乾き切った脱脂綿のように、一日中肘かけもついていない一本足のイスにだらりと、しかし断固として座りつづけるのだった。
 部屋には三脚のイスと冷蔵庫、あとは一体のセルロイド人形の他にはなにもなかった。もちろんちょっとした食器などはあるにはあったが、それにしても必要なものすらそぎ落とされたシンプルな部屋に、三脚のイスは多すぎると言えなくもなかった。なぜなら僕たちは冷蔵庫の少女に一度もイスを与えたことがないし、また来客者たちにも与えたことがなかったのだ。
 少女は冷やされる前、立っていた。ただじっと。腐れかかった床板にフェルトでできた赤い靴で立ち、むすんだ両手を胸の前でまごつかせながらじっとうつむいていた。その長い金色の髪が脂ぎって妙な艶を帯びていた。また、来客者たちも立っていた。ある男は壁に片足をかけて寄りかかり、手にした空瓶のなかの架空のなにものかを飲みつづけていた。またある女は、床に転がした他の男を踏み台にして、両手を深々とストッキングに突っ込むと、一日中しっくりくることなくたぐり上げていた。その周りを、アンナは胴の長い犬を連れてさっそうと部屋を散歩した。そのとき少女は片隅で、やはりじっとうつむいていた。そしてその隣にある一脚のイス……
 一脚のイス、いつもこれが目についた。イスはつねにその腰かけの部分の空白を僕に告発し続けた。またはその背もたれを。それは白く差し込む朝、棺のように開かれる夜、部屋を宙吊りにする雨、または霧、どんなときでも変わらなかった。いまさら白々しく「これはなんのために?」などと問う気にもなれなかった。それほど長いあいだ、この腰かけは宙ぶらりんだった。長いあいだ?──それを僕は思い出したい。

 2

 うるさいわねえ、とアンナが表情で言った。冷蔵庫からすすり泣きが聞こえている。むしむししたこの陽気で、アンナは半身裸になって部屋をうろついている。ルネッサンス期の彫像のように。僕はイスに座っている。床で人形の首が不自然に曲がって窓を見ている。

 少女がこの部屋にやってきたのはある寒い冬の朝だった。乾ききった空を背景に、少女はドアの前でうつむいていた。いつからそうしていたのだろう、ノックもせずに立っていたのをアンナが手をひいて、まるで障害物を横に退けるように部屋にひき入れたのだった。そのままアンナは買物に出かけた。
 少女はうつむいたまま、なにも語らなかった。僕と二人きりになったこの部屋で、表情にも、しぐさにも、どんな表現手段にも彼女の言葉は見つからなかった。ただじっと胸の前にむすんだ手の親指が、相互にもつれながら回転するだけだった。……時間が流れた。いや、時間の流れが意識された。窓から差し込む非常に傾いた朝日が少女の膝から下を照らしていた。少女は色あせたタータンチェックのスカートを履いていた。上は目の荒い鎖模様を編み込んだ、白い、いや薄汚れているセーターだった。そして裸足だった。少女の足の指は赤く腫れあがり、ところどころ破れていた。また指も、それから鼻すじも耳も、見るからに凍傷を患っていた。僕は一瞬少女に話しかけようとした……まるで砂漠に群れを成して落ちている水のぱんぱんにつまった皮袋だ……
 アンナが帰ってきた。アンナはゴロゴロつまった麻布の買物袋から、赤いフェルト靴と薬を少女の前にほうりだした。少女はすぐさまそれにしゃがみこむと、足に手に耳にそれを塗り込んだ。まるで飢えた猿が両手をもつれさせながら牙を剥出しにして獲物を口に押し込むように。アンナはその向こうを歩いていった。少女はしゃがみこんだまま、何度も薬をしぼりだしては患部に塗り込んでいた。

 アンナが冷蔵庫を揺らした。その瞬間、すすり泣きが喉につまる音がして、やんだ。それからアンナは手で顔を扇ぎながらバスルームへと消えていった。床ではやはり人形がうつぶせのまま首だけ回して外を見ていた。それは反射した日を浴びて濃淡を鋭利にし、まるで……まるでなまなましい事故現場だった。日はまだ高かった。僕は僕の胸からへそへ一筋の汗が流れるのを感じた。

 3

 僕はそろそろ立ち上がるべきだろうか?また、それにはどんな条件を満たしているべきだろうか?僕にはもう自分がなぜここから立ち上がらなくなったのか、いつからこうしているのか分からない。
 アンナがいつもの時刻、ちょうど夜の九時、僕の体をやっとの思いで肩にもたせ掛け、イスをきれいに拭き終えると、今度は別のタオルで僕の体を拭き始めた。そのあいだ僕の目は彼女の肩にあってそのかかとに注がれる。ギシギシと音がなりそうな感じで実に小刻みに左右にゆれている。それから今度は……今日はウィダーインゼリーだが……僕の口に流動性の食事を流し込む。
 言っておくが僕は老人ではないはずである。部屋の隅に置いてある鏡を見れば、僕が相当な若さであることは明らかだ。鏡はつねに僕に向けられているのだが、アンナのこの心遣いには感謝している。この心遣いがなければ、僕が今このように頭のなかで話をしているかどうか疑問だ。また僕は病人でもないはずである。ただ、これは少しも証明できないが。……いや、僕は少なくとも病人と言わざるをえない存在なのではないだろうか?
 話を戻そう。

 少女は薬をすっかり塗り終えると、また例によって、その場に立ち尽くした。何日かして、傷の具合がよくなると、少女は目の前にある赤いフェルト靴におそるおそる、僕とアンナの様子を伺いながら、つま先を差し込んだ。少女の痩せ細った青白いつま先が真っ赤な靴に忍び込んでいくのを僕は横目で見た。

「実際のところ、整えるヒゲの陰には整えられてしまうヒゲがあるわけで、その本来的な関係の在り方からして、まさに不平等条約を結ばれた数々の歴史的懐古に僕らはさいなまれるのです」
 サルトルに憧れる男が、目と目のあいだにセロファンテープを貼って、それで両目を離れているように見せている男が、部屋に入ってきた。この男がそもそも僕とアンナとどちらの知人なのか、もはや二人とも分からなかった。それほど彼はこの部屋に長いあいだ足しげく通っては、なにか二言三言つぶやいた後で、やってきたアンナに「いや、わたしはすぐにいかなければならないので」と言って帰るのだった。帰りぎわ、


 あの子は?あの子はどうしたんだい!



 4

 みるみるうちに消えていった。それもあれもこれも、色褪せて、すっかり思い出せなくなった。色々な徒労も費やした。まるで嘘のように。ウソ?……そうウソっぱちだ。闇雲にあがきまわって、それで、闇だったから動くのをやめたのだ。闇……そう闇だ。それもウソっぱちの光が現われては消えるやっかいな闇だ。僕はたしかに光の方へと歩いていたのに、それが……結局は「合理的」に動かないことにしたのだ。まったく狂っているとしか思えないこの怠惰な合理という奴は、僕をまったく無気力な無駄のない人間へと「進化」させた。進化した人間は、内心ヒヤヒヤしながらも、見下すような態度で公然とウソの証言をする。それから次第に、そのことが、実際は内部をむしばんでいるので、完全なウソのかたまりになってしまう。ウソのかたまりはあまりに肌が敏感すぎるので、ちょっと触れただけでも過剰に反応してヒステリーを起こしてしまう。

 5

『県境の長いトンネルを抜けると町だった。それも巨大な。夜の底が星空になった。また、陸橋の下では、車のヘッドライトが次々に夜の底を切り裂いていた。地下のホームに新幹線が停まった』

 6

 少女はなぜうつむいたまま話そうとしないのだろうか?僕たちが話しかけないからだろうか?それとも、話すべきであるというこの文脈がそもそも間違っているのだろうか?
 それにしても僕はどうしてこうも彼女のことを考えているのだろうか?確かに彼女以外のことで考えるときでも、これといった意味もなくその考えに執着するのだが、それにしてもこれは実に奇妙な現象だ。いや、今考えたようなことを考えるのは、実は彼女のことを考えたいからに違いない。つまり、彼女のことをなにか特別な事柄にしたてあげたいのだ。なぜ?そう、僕は待っていたのだ。いや、待ってなどいない。僕はこの現実が、僕という存在を絶妙にかわしながら第三者的に流れ去ることを知っている。いやそう信じているのだろう。そのようにして現実は現にやってきては過ぎ去っていくし、また、過ぎ去ったものは決して再び姿を現さない。なのになぜ!あいつはなぜここに留まるのか!あいつはウソっぱちだ!なにも言わないことで『私は偽りません』と思わせて……あんな奴の正直さなんて、本当は正直ではなく『無』なんだ、正直さは嘘をつかないことではなく、本当のことを『言う』ことなんだ!……くそっ……まるで空に反論しているみたいなバカげた気分だ。あいつは冷蔵庫から出てこようともしない、本当に狂った、なにもないことに狂った、気狂い!!!……それはつまり僕のことじゃないか。いや、僕のほうがより気狂いじゃないか。ということは、僕が正直さを装い、僕が意味もなくここに留まり、人を苛立たせ、僕が実は話すことを待たれているというのか?アンナは……アンナが僕を待っている?いやその通りだろう。アンナは少しも……ひるみもせずに……少しも変わらぬ態度で僕を待っている。僕を……僕は、僕は……そう!僕は少女を待っていた!いや、今少女に与えようとしている場所に誰かがくることを待っていた!そうだ、少女はすべての鍵を握る、いや、すべての『始まりの鍵』を握っているのだ!今までここに何人の人がそれらしく近づいて僕たちを欺いたことだろう!そしてどれだけ僕たちを疲れさせ、また、疑り深くしたことだろう!そして僕たちを無気力に、……いや、ぼくを無気力にしただろう!あのイスに座るものは自らやってこなければならない。そのものを僕たちは連れてくることはできない、僕たちはただそのものが、座るにふさわしいものかどうかを判断することができるだけだ。いや、どちらかというと、それを最終的に判断するのはこの僕だ。そして今あの少女が冷蔵庫で冷やされている。冷やしたのは他ならぬアンナだ。そしてそれをそのままにさせたのは僕だ。いや……

 いや、また僕は欺かれているかもしれないのだ。


 7

 僕は再び立ち上がれるだろうか?

 とにかく少女を冷蔵庫から『出す』ことにした。そのために僕はまず『立ち上がらなければならない』。以前は歩いていたのだ、そして今僕は立ち上がるのには十分にまだ若い、だから立ち上がることが再びできるはずだ。
 だがここで注意しなければならないのは、以前と同じように歩こうとしてはならない、ということだ。
 僕はまず立ち上がるために、腰掛けに手を突くことから始めた。
 太ももの上にのった両手がなかなか外にずれてくれない。
 少しずつ、少しずつ、外側にずれていく手の感じる摩擦が僕を興奮させる。
 少しでも気を抜くと、せっかくずれ始めた手がもとの位置に落ち込んでしまう。
 そうだ、二の腕の部分だ、そこに力をこめろ。
 くそっ!……いや焦らなくていい、あの子はそのために冷やされているんだ、ゆっくりでいい、ゆっくり確実に上げていけ。そうだ、ゆっくりだ。
 ……なんでこんなにも……

 7.2

 苦しめ……苦しめ……その先にはなにもないけど……

 8

 アンナの背中の筋肉がビクッ、とするのが見えた。それからおずおずと見る感じで僕を振り返った。
 僕の両腕が勢いよく外に落ちたのだ。
 今僕は両肩からぶらさがっている手の先に血が、血流が充満して重くなって、それも上に昇ってこれないためにたまる一方の重さを感じている。と同時に、膨れ上がろうとするそれに反発する僕の腕の形、皮膚で出来た袋の形もまた感じている。アンナはまだ僕を見ていた。まるでなにかを注意深く、慎重に見定めるように。ように?いや、見定めているのだ。
 僕は「そう」(OuiでもSiでもYesでもなんでもいいが)と言いかけたがやめた。もし言っていたとしてもあやふやなうめき声にしかならないだろうが、(もちろんそれで意志が伝わることはほぼ間違いないが)やめたのはそういう理由からではなく、自分の力で立ち上がらなければなんにもならないからだ。(自力で立ち上がるとなんになると聞かれても、それでもなんにもならないと答えるだろうがとにかく)

 9

 アンナもわかっていた。だからこそ手伝う素振りも見せなかったのだ。僕は(まだおぼつかない足どりだが)なんとか立ち上がることができるようになっていた。といっても、まだそれは十秒にも満たない時間だったが。腐れかかった床板に這いつくばり、両腕を震わせながら立ち上がろうとするのだが、すぐに力尽きてまた這いつくばる。
 目の前で人形が、首を不自然な方向に向けて、僕と同じように転がっている。

 10

 今日は客が二人来ている。一人はストッキングをたぐり上げる女、もう一人は座って足を組んでいるのが似合う女。だがその女は当然立っている。そして僕は当然その二人の間で這いつくばっている。アンナが真っ白なドレス(ワンピース?)姿で炭酸水を飲みながら部屋に現われると、座っているのが似合う女が吸っていたタバコの先で僕を指しながら、「なにやってんの、あれ、……あのみっともないやつ」と言った。
 アンナはグラスを口につけたまま答えた。「どれ?」
「これよ、」座る女は僕の顔間近にタバコの火を近づけた。「こ、れ!」
 アンナは口のグラスで僕を視界からさえぎるようにして辺りに目を這わせると、「どれ?なんのこと言ってるの?」となおも言い張った。
 ストッキングの女が言った。「いいかげん認めたらどう?もうこの人は立ち上がれない、って。この人だってかわいそうじゃない。こんなみっともない姿を見られるくらいなら、そのまま座っておけばよかったのよ」
「そんなことはない、僕は今とても興奮しているんだ」という声がうまく出せなかった。自分でも意味のない「あーうー」に聞こえる声を、二人は寒気がするほど冷たい目で見下ろしていた。だがアンナにだけは伝わったようだった。なぜならアンナは僕とは違う方を見つめながら「なんのこと言ってるのかさっぱりだわ」とあくまでしらを切ったからだ。

 11

 ほんの練習のつもりだったんだ、本当にそうだろうか?僕は今まで『練習の歩行』というものをしたことがあっただろうか?いやそもそも始めから、そんなものがあるだろうか?この練習こそ、実は本番なのではないか?僕は今まであのイスに座る存在に手を引かれて歩いてきたことがいまさらながらに分かる。僕が座り込んでいたのはその証拠だ。そして今、冷蔵庫に向かって日々歩き続ける。
 冷蔵庫からは少女の息づかいが聞こえている。
 アンナはぶざまな僕を見ても、二人の時は、あたたかく見守っている。いや、見守っているというよりも『信じている』。そしてそれを信じられるからこそ、他人の前では『この僕を見ない』、いや、『この僕を見ない』ことによって信じることが出来ている。そしてアンナが『ここ』にいるのはまさに『そのため』だ。つまりこの僕を『信じるため』だ。『信じるため』にここにいるのであって、『信じているから』ここにいるのではない。
 では僕は『信じられているから』歩こうとしているのだろうか?『歩こうとしているから』信じられるのではなく……つまり僕は、正直に言えば(無意識的に隠しているところからそう判断できるのだが)、『歩ける』ことによって『信じられ』たいという感情を持っているのだ。いや、そうだろうか?僕自身、信じられているかどうかはこの際どうでもいいことだ。僕はあの少女によって冷蔵庫に歩かされているのであって、言い換えれば、あのイスに誰かを座らせるために歩かされているのであって、それ以外のなにものでもない。ただ、この僕を支えているのはまさしくアンナだ。そしてあの少女をここに引き入れたのも、アンナだ。
 この部屋はアンナによって構成され、アンナによって引き裂かれる。

 12

 ドアを開けた瞬間、少女はギョッと身をすくめた。おびえ切った目で僕を見つめ、丸めた身体を後退りさせ、奥行きのない冷蔵庫の、さらに奥へ逃げるように。
 僕は床から冷蔵庫のなかへ手を差し伸べた。

 13

 僕たちはそれぞれのイスに座って向かい合った。もはやここには完全なデルタ(=三角形)が存在するような気がした。それぞれは沈黙のうちにすべてを語り合った。そうなんだ……僕は自分が何かを悟ったという思いにとらわれていた。つまり僕はすべてを『支配しようとしていた』。しかしそれは『不可能だった』。僕はアンナのイスにも、僕のイスにも、そして少女のイスにも、すべてに同時に座ろうとしていた。それゆえに『不可能だった』。そしてその三つに座ろうとした僕は、『どこにも座らないでいた』。それがこの一連のすべてだった。
「あなたが話せる日をどれだけ待ちわびていたことか」アンナが言った。
「僕はあなたたちのぶんまで話そうとしていたんだ、それがわかった、だから話せるようになった、ありがとう、僕を疑ってくれて、僕を信じてくれて、僕を甘やかしてくれて、僕を虐げてくれて、僕をあきらめてくれて、僕を期待で押しつぶしてくれて。僕はもう欲張ってあなたたちのぶんまで話そうとはしない、それはあなたたちにすっかり任せることにしたんだ、でも忘れないでほしい、あなたたちは僕のための道具にしかすぎない。それを忘れたなら、僕たちは、特にアンナのイスから、この部屋はもろくも崩落していくだろう」
「あの……」少女が言った。
「なんだ?」僕が言った。
「私……その……」
「理由なんていらない、一緒に生きていこう」
「そうね」アンナが言った「それが楽しいわ」そして天を仰いで笑った。

 14

 あるときは風に、ある時は闇に葬られたかもしれない僕の存在の、すべては僕が生まれ変わるために費やされた。身体の細胞は200日強ですべて入れ替わる。冷やされた少女の前に座っていた少女はある時を境にみるみる歳をとり、ついには永遠の老婆となって燃え尽きると、そのまま鈍く輝くめのう石となってどこかへ消えてしまった。いずれ彼女もそうなるだろう。だがそれは僕にも、ましてアンナにも、かならず訪れる必要不可欠な『時の踊り』であるように、僕たちは語りかけるのだ。やがてその必然からくる内的かつ自発的な変化……つまり死……は世代を越え、人の心さえ越えて、はるかな機械世紀の幕切れまで持ちこたえられる100年の石となるのだ。それは冷やされる少女たちの晴舞台であり、つまりオペラの舞台の中央の最前列であり、また僕の奏でる脚本の、あるいは煮えたぎる劇場であるアンナの、その中のone−century stone(世紀の石)の輝きのうちのほんのかすかなうめき声として幾千もの耳に触れることになるだろう。やがて言葉は、いや意味はそこから生まれ出でる泉として人々の目の前に開かれたそれらの一部分として生き残る闇の、石の、激しく空高く吹き上げる噴泉のわれわれは一つの部品となって使い捨てられよう。