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僕は目を逸らしたかった

2002年 木戸隆行
 僕は人間から目を逸らしたかった。『背を向け』たかったのではなく『目を逸らし』たかったのは、人間が嫌い、つまり求めたものが与えられないからではなく、本当に正直に言って興味がなく、煩わしいからだった。と言うのは、相手の側もプライドからそのような僕とは易々と関係を断絶してくれるにもかかわらず、それが現実化すると僕は生きては行けないからだった。これは重大な問題だった。

 僕の背中に目があったのはいつのことだったろう?

 恐怖と快楽を生み出しているこのカラクリの、僕はネジを引き抜いたのだった。と言うのは、かつて神を否定することが禁則だったことや、政府の批判やエロの露骨な描写が弾劾されてきたように、今、真剣な人間嫌いが人の口から憚られている。

 全く幼稚で自然な言葉遣いによって表現することは、今では常識であるべきだ。例えばコクトーの文を、難解な、いや、厳密で正確で厳格な言葉遣いによって翻訳されているのを読めば、それは一目瞭然だ。
 天才的な瞬間がかつて描いたであろう取り留めのない、言い換えれば論点がリアルタイムに変化して行く(それはまさに螺旋状に)形式は、シュルレアリスムの頃から築かれてきたはずだ。それがどうだろう、この惨状は。
 瑞々しく話して行くことができる作家は、今いったいどれくらいいるというのか?
 大学出で枝先に残った枯葉のようにただ固くくっついているようなそんなものの中に、僕は振り向くことを今している。