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前に行くこともできるし、後ろに行くこともできる

2003年 木戸隆行
 前に行くこともできるし、後ろに行くこともできる。斜めは少し可能だが120キロが限界だ。それはそれでいいじゃないか。何を不安がる?寒さに首をすぼめる鳩でさえ大空を舞うこの時代に、お前だけが縮こまって……
 すべてはある、そう考えたほうがいい。ろくでもない真実に振り回されたとして、そこに何を見出せる?あれを見てみるがいい。一抹の不安を抱えながら徘徊する枯葉も、いつしか吹きだまりに身を横たえ、めくるめく空想に今にも身悶えそうになる。あらんかぎりの沈黙を一身に背負い、彼女のストールは言いたげな何かそのものであるかのように光り輝いているし、そのストールの糸口も見つけられぬまま、いたずらにお前の時間だけが過ぎて行く。もしも狂った言葉がお前を興醒めさせるなら、いっそのこと、お前のことなど根こそぎ忘れ去るがいい。
 失われた秘宝の奥の奥に──コクトーがケネスアンガー作品に送った言葉「魂の急所にすばやく触れる作品」の奥に──ついに見つけられなかった二重螺旋が残っているはずだ。